「相加平均と相乗平均の大小関係」と最大値・最小値を求める問題への応用2
本記事と合わせて,こちらの記事も参考にしてください。
さっそく例題から始めます。
例題1
とします。このとき の最小値を求めてください。
この式なら,ひとまず展開してから考えてみましょう。
例題1の解答
与えられた式を展開します。
\begin{align}
\left( x+\frac{1}{x}\right)\left( x+\frac{9}{x}\right) &= x^2 +10+\frac{9}{x^2}\\
\end{align}
ですから
相加平均と相乗平均の大小関係より
\begin{align}
x^2+\frac{9}{x^2} \geqq 2\sqrt{x^2 \cdot \frac{9}{x^2}}=6
\end{align}
が成り立ちます。
等号成立条件は, のときですからこの方程式を解くと
\begin{align}
x^2 &= \frac{9}{x^2}\\
x^4 &= 9\\
x^4-9 &= 0\\
(x+\sqrt{3})(x-\sqrt{3})(x^2+3) &= 0\\
x \gt 0 & なので\\
x &= \sqrt{3}
\end{align}
であることがわかります。実際,確認してみると
\begin{align}
x^2+\frac{9}{x^2} = \sqrt{3}^2+\frac{9}{\sqrt{3}^2} = 6
\end{align}
となります。
したがって, の最小値が とわかりましたから
すなわち の最小値は となります。
ところで件の式の と の部分ですが
どちらも相加平均と相乗平均の大小関係を利用できそうな形をしています。
それぞれに定理を適用することでも最小値を求めることができるのでしょうか?
考えてみましょう。
考えてみる
だから
相加平均と相乗平均の大小関係より
\begin{align}
x+\frac{1}{x} \geqq 2\sqrt{x \cdot \frac{1}{x}} = 2 \tag{1}\\
x+\frac{9}{x} \geqq 2\sqrt{x \cdot \frac{9}{x}} = 6 \tag{2}
\end{align}
が成り立ちます。
式(1),(2)を辺々かけあわせて
を得ます。よって最小値は です。(???)
おや。欲しい不等式が思うように得られませんでしたね。
これは,条件を確認せずに式(1)と(2)を辺々掛け合わせてしまった点がまずいです。
なぜなら,式(1),(2)それぞれの等号成立条件が合わないからです。
式(1)の等号成立条件は のもとで ,すなわち のときです。
一方,式(2)の等号成立条件は同様にして のときです。
つまり,確かに の最小値は ですし
の最小値は ではありますが
と が同時に最小値をとる の値は存在しないのです。
ですから の最小値 とはなってくれないのです。
ただし,式(3)そのものは正しいです。(既に を示しているため)
しかしながら式(3)だけから の最小値は とは言えません。
(この場合,そもそも を満たす実数 が存在しないのでした)
さて,次の問題はどうでしょう。
例題2
とします。このとき次の不等式を示してください。
\begin{align}
(a+b)(b+c)(c+a) \geqq 8abc
\end{align}
例題2の解答
なので,相加平均と相乗平均の大小関係より
\begin{align}
a+b \geqq 2 \sqrt{ab} \tag{1}\\
b+c \geqq 2 \sqrt{bc} \tag{2}\\
c+a \geqq 2 \sqrt{ca} \tag{3}
\end{align}
が成り立ちます。
式(1),(2),(3)の等号成立条件はそれぞれ のときで
これらがすべて成り立つのは のときです。
に注意し,式(1),(2),(3)を辺々かけて
\begin{align}
(a+b)(b+c)(c+a) \geqq 2 \sqrt{ab} \cdot 2 \sqrt{bc} \cdot 2 \sqrt{ca} = 8abc
\end{align}
を得られます。
この解法において気を付けなければいけないのは
① 式(1),(2),(3)それぞれの等号成立条件を確認し,かつそれらをすべて満たす場合があることを確認する
② 式(1),(2),(3)の各辺が正であることを確認する
以上の点です。
①について,式(1),(2),(3)すべての等号が同時に成り立つ場合があるからこそ
これらを辺々かけあわせた の等号も成立します。
②について, のとき
『 かつ ならば 』が言えます。
たとえば のときは、これは成り立ちません。
ここまで言っておきながら,例題2の不等式は
わざわざ相加平均と相乗平均の大小関係を利用しなくとも証明することができます。
不等式の証明の基本『 が成り立つならば 』を言うだけです。
例題2の解答(別解)
\begin{align}
(左辺)-(右辺) &= (a+b)(b+c)(c+a) - 8abc\\
&= a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b+2abc-8abc\\
&= a(b-c)^2+b(c-a)^2+c(a-b)^2
\end{align}
なので
が言えます。
よって が成り立ちます。
このように,問題によって相加平均と相乗平均の大小関係の不等式を利用しなければ
解けないということはありません。(利用しない場合にかなり難しくなるということはあるかもしれません)
ただ,証明済みの不等式から出発できる点で早く済む場合があるというわけであって
そのぶん利用できる条件を確認する手順が必要です。
どちらの解き方が万能とかより良いとかいうことはなく
好きな手法,自分にわかる手法で問題を解けばよいでしょう。