三角関数の合成をベクトルで考える
「三角関数の合成」について自分なりに考えたことをまとめました。
次の公式は三角関数の合成と呼ばれ
特に高校数学において重要とされる公式の一つです。
三角関数の合成
は実数とします。三角関数に関する次の式が成り立ちます。
\begin{align}
a \sin \theta + b \cos \theta = \sqrt{a^2 + b^2} \sin (\theta + \alpha)
\end{align}
ただし は を満たす角です。
と の 次の和を だけの式にできる点で嬉しい式だと思います。
ところでこの公式はしばしば次のような教え方(覚え方?)をされます。
具体的な数値を当てはめた例でもって紹介します。
三角関数の合成の例
式 の変形を考えます。
の係数は , の係数は であることを確認し
座標平面上に 点P をとり,次の図のような直角三角形を描き
また斜辺と底辺のなす角を とします。
変形後の式 において
の部分は上の図の直角三角形の斜辺の長さに対応し
この例では となります。
一方 は,この例では とわかるため,最終的に
となります。
というものなのですが
突然先の図1が出てきてそれでうまくいくのは謎だなとか
加法定理を利用した証明もよく目にするけど
これは理解できるけど(個人的に)わかりにくいなとか
なんで の式ばかり目にするんだ(のほうもあるのに)とか思っていました。
そんな折に,三角関数の合成はベクトルの内積ととらえるという知見を得たので
それをもとに件の公式について次のように考えてみました。
まず, という式は,二つのベクトル の内積ととらえることができます。
そこで,次のように考えます。
まず原点をOとする座標平面上に点P,点Q,点A,点B を取ります。
点Pは原点を中心とする半径 の円周上の点です。
点P,Qはひとまず第一象限,次の図の位置にしましょう。
とおきます。
さて, なので
です。
一方で図2とベクトルの内積の定義より
ですからこれを計算していくと
\begin{align}
\overrightarrow{OQ} \cdot \overrightarrow{OP} &= |\overrightarrow{OQ}| \cdot |\overrightarrow{OP}| \cos (90-(\theta + \alpha)) \\
&= 1 \cdot \sqrt{a^2 + b^2} \cos (90-(\theta + \alpha)) \\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \sin (\theta + \alpha) \tag{3}
\end{align}
となりますから,(1),(3)より
\begin{align}
a \sin \theta + b \cos \theta = \sqrt{a^2 + b^2} \sin (\theta + \alpha) \tag{☆1}
\end{align}
がいえます。
図2より, は を満たす角です。
さらについでに でもありますから
\begin{align}
\overrightarrow{OQ} \cdot \overrightarrow{OP} &= |\overrightarrow{OQ}| \cdot |\overrightarrow{OP}| \cos ( \beta - \theta ) \\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \cos ( \beta - \theta ) \\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \cos ( - ( \theta - \beta )) \\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \cos ( \theta - \beta ) \tag{4}
\end{align}
もいえます。よって(1),(4)から
\begin{align}
a \sin \theta + b \cos \theta = \sqrt{a^2 + b^2} \cos ( \theta - \beta) \tag{☆2}
\end{align}
が成り立ちます。
図2より, は を満たす角です。
そういうわけで,三角関数の合成の公式の導出に至りました。
以上は の がともに正の場合ですが
それ以外の場合も…まぁ,似たような図を描けばうまくいくことでしょう。
すると
\begin{align}
a \sin \theta + b \cos \theta = \sqrt{a^2 + b^2} \sin (\theta + \alpha) \tag{☆1}
\end{align}
の形の変形を行いたいときに
例に挙げたように を見て,図1のような
原点と点を結ぶ線分を斜辺とする直角三角形を考えるのは
図2でいう次のピンクの三角形に,向きを変えて注目していたことになるんですね。
一方で, に関する式変形,つまり
\begin{align}
a \sin \theta + b \cos \theta = \sqrt{a^2 + b^2} \cos ( \theta - \beta) \tag{☆2}
\end{align}
の形での変形を行いたいときは
図の水色の三角形に注目するとよいことがわかります。
またこれら☆1,☆2の式はそれぞれ と で表記は違っていても同じもので
それは,☆1から始めて
\begin{align}
a \sin \theta + b \cos \theta &= \sqrt{a^2 + b^2} \sin (\theta + \alpha) \tag{☆1}\\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \sin (\frac{\pi}{2} - \frac{\pi}{2} + \theta + \alpha)\\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \sin (\frac{\pi}{2} - ( \alpha + \beta ) + \theta + \alpha)\\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \sin (\frac{\pi}{2} - (\beta - \theta) )\\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \cos ( - (\beta - \theta) )\\
&=\sqrt{a^2 + b^2} \cos ( \theta - \beta) \tag{☆2}\\
\end{align}
と変形することでも確認できます。
の表記でも の表記でもでも
問題に合わせて,あるいは自分の好きな方を選んで
変形すればよいということです。
最後に,もう一度件の定理をまとめて終わります。