三角不等式
三角不等式について気になったので
調べたり考えたりしたことを備忘録的にまとめておきます。
三角不等式は,三角関数の項( など)が含まれる不等式のことではなく
ここでは次のような不等式を言います。
三角不等式
実数 について,次の不等式が成り立ちます。
それぞれの絶対値の和は,必ず の和の絶対値以上になるというのが
この不等式の主張です。
が同符号のときは明らかに成り立ちそうですし(例:)
異符号のときは右辺のほうが大きくなりそうです(例:)。
"成り立ちそう"ではなくて,きちんと証明してみます。
【証明】三角不等式
絶対値の定義より, なので
を示すのに を示してよいです。
\begin{align}
(右辺)^2 - (左辺)^2 &= (|a|+|b|)^2 -|a+b|^2\\
&=|a|^2+2|a| \cdot |b| +b^2 - (a+b)^2\\
&=a^2 +2|a| \cdot |b| +b^2 - (a^2+2ab+b^2)\\
&=2|ab| - 2ab\\
&=2(|ab| - ab)
\end{align}
ここで, なので がいえます。
なぜなら 実数 の絶対値 について
のとき
のとき なので
これらをまとめて がいえるからです。
(そして とおけばよいです。)
したがって が成り立ちます。
さて,三角不等式は「三角」と冠していますが,三角形の成立条件に関連しています。
図形的に理解するならば、ベクトルが有効です。
三角不等式(ベクトル)
ベクトル について,次の不等式が成り立ちます。
これは,次の図をもとに考えるとよいです。
は の大きさであり,この図における線分ABの長さです。
件の不等式 は
点Bから点Cへの直線距離(すなわち)よりも
点Bから点Aを経由したのちに点Cへ行く道のり()のほうが長くなる
という主張だとわかります。
ベクトルの場合も証明してみましょう。
【証明】三角不等式(ベクトル)
示すべき不等式は です。
の少なくとも一方が のとき
例えば だとすると,
であり, なので不等式は成り立ちます。
同様にして の場合, の場合も示すことができます。
よってそうでない場合の証明をします。
いずれも でないベクトル について
なので
を示すのに
を示してよいです。
\begin{align}
(右辺)^2 - (左辺)^2 &= (|\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}|)^2 - |\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}|^2\\
&= |\overrightarrow{a}|^2 + 2|\overrightarrow{a}| \cdot |\overrightarrow{b}| + |\overrightarrow{b}|^2 - (|\overrightarrow{a}|^2+2\overrightarrow{a}\cdot \overrightarrow{b}+|\overrightarrow{b}|^2)\\
&=2(|\overrightarrow{a}|\cdot|\overrightarrow{b}|-\overrightarrow{a}\cdot \overrightarrow{b})
\end{align}
ここで,ベクトルの内積の定義 より
(ただし は のなす角)
\begin{align}
2(|\overrightarrow{a}| \cdot |\overrightarrow{b}|-\overrightarrow{a}\cdot \overrightarrow{b})\\
=2(|\overrightarrow{a}| \cdot |\overrightarrow{b}|-|\overrightarrow{a}| \cdot |\overrightarrow{b}| \cdot \cos \theta)\\
=2|\overrightarrow{a}| \cdot |\overrightarrow{b}| (1- \cos \theta)\\
\end{align}
と変形できて, から がいえるため
がわかります。
したがって, が成り立ちます。
三角不等式は複素数においても成り立ちます。
それは次のとおりです。
複素数 ( は実数, は虚数単位) をベクトル に対応させれば
二次元ベクトルに帰着できるので,確かに成り立つでしょう。
一応,証明してみます。
【証明】三角不等式(複素数)
示すべき不等式は です。
複素数 において,
なので
を示してよいです。
\begin{align}
&(右辺)^2-(左辺^2)\\
&=|z_1|^2+2|z_1| \cdot |z_2|+|z_2|^2 - \sqrt{(a+c)^2+(b+d)^2}^2\\
&=a^2+b^2+2|z_1| \cdot |z_2|+c^2+d^2-(a^2+b^2+c^2+d^2+2ac+2bd)\\
&=2\sqrt{(a^2+b^2)(c^2+d^2)}-2(ac+bd)
\end{align}
この値が0以上,つまり
がいえればよいです。
ここはちょっと困りましたが,シュワルツの不等式の力を借りようと思います。
シュワルツの不等式とは次のとおりです。
シュワルツの不等式
任意の正の整数 について,次の不等式が成り立ちます。
ただし,各 は任意の実数です。
このシュワルツの不等式において, とすると
となり
これの両辺の平方根をとって, に対応させた姿が
まさに式(☆)になります。
そういうわけで,シュワルツの不等式より式(☆)は成り立ちます。
結局, が成り立ちます。
シュワルツの不等式については,また別の機会に詳しく調べたいと思います。